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    はじめに

    突然ですが、以下の絵をご覧ください。「Edmond De Belamy(エドモンド・ベラミーの肖像)」というタイトルの絵です。

    出典:(https://obvious-art.com/portfolio/edmond-de-belamy/

    白いシャツに黒いスーツを着た男性がぼんやりと浮かび上がっているように見えます。顔ははっきりとは描かれておらず、どのような人物なのか見る側の想像力が掻き立てられます。この絵、誰が描いたと思いますか?

    実はこの絵を描いたのは人間ではなく、AIなのです。

    生み出したのはパリを拠点とする「Obvious」というグループです。

    ちなみに、この絵で描かれている人物は「エドモンド・ベラミー」という名の架空の男性です。14世紀から20世紀までに描かれた肖像画1万5000枚をAIに学習させることで創作したそうです。

    この絵は、2018年10月25日ニューヨークで行われたオークションに出品され、なんと43万2500ドル(約4800万円)という高値で落札されました。予想価格は7000〜1万ドルでしたが、その約43倍の値段がついたということになります。当時は話題になったため、覚えている人も多いのではないでしょうか。

    https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/309602.html

    私はこの話をはじめて聞いたとき、「技術の進歩って凄いなぁ」くらいの安直な感想しか思い浮かばなかったのですが、先日、ふとこの話題を思い出したとき疑問に思うことがありました。

    それは「現時点でこれだけ精細な絵も描けるAIって、今後どうなっていくのだろう?」という疑問です。この疑問をきっかけにAIの未来について調べてみたところ「シンギュラリティ」という言葉にいき当たったため、今回紹介します。(正確には、単語自体聞いたことはありましたが詳しく調べたことがなかったため、改めて調べてみました。)

    シンギュラリティとは

    「シンギュラリティ(singularity)」とは、技術的特異点(technological singularity)ともいわれ、「AIが進化して自身を改善する行為を繰り返した結果、人間よりも優れた知能を獲得する転換点」のことを指します。「いずれコンピューターが人間の知能を超えるほどの優秀な知能(スーパーインテリジェンス)を手に入れることで、人間社会が変容してしまうであろう」と考えられています。シンギュラリティは2045年頃に到来することが有力視されているため、「2045年問題」とも呼ばれています。

    つまり、AIが人間の脳を超えることでAI自身がAIを生み出せるようになり、2045年以降は人類が何かを生み出したり予測したりする必要がなくなるのではないか?ということです。

     したがって、AIが人類最後の発明になるのでは、といわれています。

    提唱者について

    シンギュラリティの概念を最初に提唱したのはアメリカの数学者・小説家であるヴァーナー・ヴィンジ氏だといわれています。彼は1993年に発表された著書『The Coming Technological Singularity: How to Survive in the Post-Human Era(〈特異点〉とは何か?)』のなかで、シンギュラリティについて触れています。

    そのシンギュラリティの概念を大きく広めたのはアメリカの発明家・未来学者であるレイ・カーツワイル氏で、2005年に著書『The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology(ポスト・ヒューマン誕生 コンピューターが人類の知性を超えるとき)』にてシンギュラリティの訪れを予測しています。

    これ以降、多くの学者らがシンギュラリティについて言及するようになりました。

    議論の広まり

    シンギュラリティが今日議論されるようになったきっかけは、ディープラーニング(深層学習)の登場です。ディープラーニング=AIではなくAIの要素のひとつで、十分なデータ量を用意することで、機械が自動的に特徴を抽出してくれるディープニューラルネットワークを用いた機械学習がディープラーニングです。

    ディープラーニングが活躍した例としては、Google傘下のDeepMind社が開発した囲碁AI「Alpha Go」が、2017年に人類最強の呼び声高い中国人棋士を破ったことなどがあげられます。なお、強くなりすぎたAlpha Goはその後人間との対局から引退しています。

    囲碁は将棋やチェスに比べ局面の数が多く、コンピュータが人間に勝つのは困難であるといわれていたボードゲームでした。それだけに、このニュースに衝撃を受けた人も多かったようです。

    このような出来事を受け、2045年問題の議論が加速しています。

    続いて、シンギュラリティが与える社会への影響について見ていきます。

    シンギュラリティが与える影響

    まず、代表的なものが働き方の変化です。

    ご存知の方も多いと思われますが、「10〜20年後に、日本の労働人口の約 49%が、技術的には人工知能やロボット等により代替できるようになる可能性が高い」といわれています。これは、野村総合研究所が行なったオックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授との共同研究により試算されたものです。

    一方、芸術・哲学・考古学・歴史学など抽象的な概念を整理・創出する職業や、他者との協調・サービス・ネゴシエーションが求められる職業は代替が難しい傾向にあるようです。

    また、AIなどが労働の多くを代行してくれるようになった結果、人類が労働から解放されてベーシックインカム(全ての国民に一定の所得が支給されること)が広がるのではないか、といわれています。そしてベーシックインカムを導入することで、格差や貧困から解放されるのではないか、とも考えられています。

    さらに、私たちの身体が変化する可能性もあります。例えば病気でダメージを受けた臓器を人工臓器に入れ替えたり、身体にナノボットを注入して記憶や思考を支援するといったケースなどがあげられます。その結果、人間が不老不死に近くなるのではないか、ともいわれているそうです。

    もはやここまでくるとSFの世界の話ですね。自分にはにわかには信じがたいですが、もし本当にこのような世界がやってくるのであれば、それはそれで面白そうだなと思っています。

    おわりに

    ここまで、非常に簡単にではありますがシンギュラリティについてご紹介しました。

    もちろん、シンギュラリティに肯定的な意見ばかりがあるわけではありません。反論や懐疑的意見も多くあり、本当にシンギュラリティはやってくるのか、やってくるとしたらそれはいつなのか、確かなことは誰にもわからないというのが現状です。

    私の場合はここまで調べてみて、働き方が変わって職を失ったり今の生活が変わったりする可能性があるのは辛いですが、人類がより自由な時間を手に入れて豊かな生活ができるようになるのであれば、喜んで受け入れたいと思いました。

    なお、2045年はそう遠い未来の話でもありません。20数年後、自分たちがどのような便利な世界の中で暮らしているのか、色々と想像してみるのはいかがでしょうか。