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    「片手で何かをしながら、もう片方の手で本を読みたい」というシチュエーションを経験したことはありませんか?例えばプログラミングの勉強中にキーボードで文字を打ちながら、マウスを操作しながら、あるいはコーヒーを飲みながら、お菓子を食べながら……。いろいろな場面があると思います。しかしそんな時、本を押さえていた手が滑ってしまい、どのページを開いていたか分からなくなってしまった、というのも”あるある”なのではないかなと思います。

    なぜそんなことをお尋ねしたかというと、ある時片手で本を読みながら、「楽に本を開いておけるような便利アイテムがあったらいいな」と思ったからです。そこまで大きな需要のあるものではなさそうですが、あったら便利だなという感じのものです。

    「わざわざ出かけてお店に探しに行ったり、ネットショッピングで買ったりするほどでもないかな」と考えていたところ、3Dプリンターを持っていることを思いだし、作ってみることにしました。この記事では、3Dプリンターでそんなアイテムを作ってみた過程を紹介したいと思います。

    3Dプリンターとは

    3Dプリンターという単語自体は、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。その名の通り、3D(=立体)の物体をプリント(=成形)する機械のことです。しかしそのしくみについては、あまり知られていないかもしれません。

    個人で気軽に所有できるような3Dプリンターには、大きく次の2種類があります。

    • 熱溶解積層方式(FDM方式)
    • 光造形方式

    FDM方式は、熱して柔らかくした細長い樹脂を敷き詰めて面を作り、それを積み重ねることで立体を作る方法です。もう一方の光造形方式は、紫外線を当てると硬化する樹脂(UVレジン)を使います。物体の断面状の紫外線をUVレジンに当てて、その面を積み重ねることで立体を作成します。どちらの方式も、断面を少しずつ重ねていくことで立体が出来るようになっています。

    FDM方式のほうが取り扱いが簡単で、作品の強度も高いため、主流な方式となっています。しかし、積み重ね時にできる層状の痕跡(積層痕)やフィラメントの痕跡が目立つことがデメリットの一つです。それに対して、ある程度の精度が必要な物やフィギュアのような表面の滑らかさが重要な物を作るには、光造形方式が向いています。ただ、この方式で使用するUVレジンは、プリント後に作品の洗浄が必要であったり、直に触った後に放置しておくと皮膚が炎症を起こすことがあるなど、取り扱いがやや面倒というデメリットがあります。

    ちなみに私が所有している3Dプリンターは光造形方式なので、この記事の後半では光造形方式での製作過程を紹介します。

    3Dモデルを探してみる

    作りたい物が決まったら、3Dプリンターに設計データ(3Dモデル)を渡すだけで、あとは全自動で出来上がります。3Dモデルは自分で作成することもできますが、今回のような”あるある”なアイテムの場合は無料で公開されていることもあるので、探してみることにしました。

    3Dプリンターで使える3Dモデルを公開しているサイトはたくさんありますが、今回はThigiverse(https://www.thingiverse.com/)というサイトを使い、「book holder」と検索してみました。

    検索結果にたくさんのアイテムが出てきて迷いますが、今回は形状がシンプルでオシャレな感じのこちらを使用させてもらうことにしました。

    https://www.thingiverse.com/thing:2105202

    3Dプリンターに読み込ませるデータを作る

    ダウンロードしたデータには、stlという種類のファイルが含まれています。これが3Dモデルのデータです。このファイルには作品の形状の情報が入っていますが、実はこれを直接3Dプリンターに渡すことはできません。3Dプリンターが物体のどの向きの断面を積層していくのか、どれぐらいの間隔で積層していくのかとかといった情報が必要になるためです。

    その他の細かい設定を含め、3Dプリンターが読み込めるファイルを作成するのがスライスソフトと呼ばれるものです。今回はChitubox( https://www.chitubox.com/en/index )というスライスソフトを使用します。

    ダウンロードしたstlファイルをChituboxに読み込ませてみます。

    水色の四角形の枠が、3Dプリントできる範囲のサイズです。ちょうどいい感じに枠の中に収まっています。

    ラフトとサポートの設定

    このまま断面の設定などもできるのですが、私の経験では、ラフトと呼ばれる台座のようなものと、サポートと呼ばれる細長い部品をつけるとうまくいくことが多いです。そのための設定をしていきます。

    ↑ラフトとサポートを設置したのを横から見た様子です。本体の下に見える台座がラフト、ラフトと本体をつなぐ突起がサポートです。
    ↑サポートが設置されている様子です。見やすさのため、ラフトは見えないようになっています。

    サポートがついてほしくない所についていないかなどを確認して、適宜編集します。ラフトやサポートの設定は、プリントの成功・失敗に影響してくるのですが、失敗を重ねて段々とコツが掴めてくるようになります。

    スライスの作成

    最後に断面をどのように積層していくか、スライスの設定を行います。積層時の紫外線の照射時間などが変更できますが、デフォルトの設定からはほとんど変えていません。

    ↑ラフトとサポート部分の断面

    スライスの設定まで完了したら、3Dプリンターに渡すことのできるファイル形式で保存します。

    3Dプリントを実行する

    それではいよいよプリントしていきましょう。

    まずはレジンタンクにUVレジンを入れます。

    ↑灰色の液体がUVレジンです。

    色は灰色以外にも色々とありますが、手元にこれしかないので、今回はこれを使用します。

    あとはデータを保存したUSBメモリを3Dプリンターに差し込み、本体の液晶パネルを操作してプリントを実行するだけです。最近の機種では、Wi-Fiなどでネットワークに接続し、無線でデータを送信できるものもあるようです。

    ↑中央のステージが上下して、1層ずつ積み重なっていきます。

    プリント中に途中経過をみることもできます。試しに見てみました。

    ちょっとわかりにくいかもしれませんが、右側の方がステージから剥がれてしまっているのが見えます。失敗です。ラフトがステージにしっかりとくっついていなかったようなので、プリントの設定を少し変更してやり直しました。

    その結果、二度目はうまくいきました。ちなみに今回の作品は、ラフトも含めて厚みが1.5cmぐらいで、完成までの時間は約1時間です。

    ステージからラフトを剥がし、作品からサポートを取り除きます。またUVレジンがついたままだとベタつくので、アルコールで洗浄します。

    この段階でも使えることは使えるのですが、実は3Dプリンターの紫外線だけだとレジンの硬化が不十分なことが多いです。そのために、もう一度紫外線を当てて補強する、2次硬化を行います。今回は市販のUVランプを使用しましたが、晴れた昼間なら太陽光に当てるのでも良いです。

    ↑UVランプは、ジェルネイル硬化用の市販のものを使っています

    これで一通りの工程が完了しました。

    良い感じに仕上げる

    これで一応、問題なく使うことができるようになりました。しかし、よく見るとサポートのついていた面には小さなボツボツが見えていて、ちょっとかっこ悪いです。また灰色というのも味気ない感じです。

    そこで、耐水ペーパーで表面を滑らかにして、塗装してみることにしました。ただし、作品にそのままスプレーなどの塗料をつけようとしても、塗料の乗りが悪かったり発色が微妙だったりします。そのための下地として、サーフェイサー(サフ)というものを塗布しました。

    ↑サフをかけると、質感が良くなり、やすった時の小さな傷なども目立たなくなります。

    最後に、塗装スプレーで赤色に着色しました。

    ↑このまま使用すると本に色が移ってしまうので、透明な塗装でさらにコーティングしています。

    なかなかいい感じになったと思います。

    これで片手で本を読んでいても、うっかり手を滑らせてしまう悲劇を減らせるはず…!

    さいごに

    3Dプリンターというと、製造分野、医療分野、航空・宇宙分野など、さまざまな専門分野での応用例が注目されがちです。そのため、一般的には少し難しそうなイメージを持たれているのではと感じています。

    しかし実際にやってみると、意外と手軽に扱えるものだということがわかります。3Dモデルさえあれば、不器用な人にでもそれなりにちゃんとしたものを作ることができるのです。

    今回のようにフリーで公開されているデータを使用することもできますし、自分にしか需要がないような作品を1からモデリングして作ることもできます。いずれにしても、ちょっとした「あったらいいな」を作るのに、3Dプリンターはうってつけです。

    また、今回一度目の成形で失敗したラフトとステージの接着を二度目で改善したように、「試行錯誤しながら作品を完成させていく」というものづくりの醍醐味を楽しむことができるのも、3Dプリンターをおすすめするポイントの一つです。

    もし興味を持ったら、一家に一台いかがでしょうか?