私は現在、本の編集の仕事をしていますが、以前は某大手書店に書店員として勤務していました。
今でも仕事内容や専門用語は頭に残っており、書店員時代のことを思い出そうとすると、さまざまなエピソードがいくつも頭に浮かんできます。
これだけ色々と覚えていると、やはり書店員の仕事は楽しかったのだなあと感じます。
「書店には毎日のように通っている!」という方でも、書店での細かい仕事や、その仕組みまで垣間見ることはなかなか難しいものです。
そこで今回は、皆さんが普段書店を利用していて、疑問に思いそうな点を5つピックアップして、Q&A形式でご紹介します。
最初にお断りさせていただくと、私が書店に勤務していたのは数年前のため、現在とは状況が異なる場合があります。
また、書店によってルールやシステムが異なります。同じチェーンの書店でも店舗ごとに変わるため、当てはまるところと当てはまらないところが出てきます。
ただし、今回掲載しているQ&Aは基本的な内容を取り上げているため、古今東西あまり変わりがないものと思われます。
開店時間直後から、新刊がすべて店頭に並んでいるとは限りません。
入荷した本は箱から出された後、冊数を数え、伝票と数が合っているかを確認します。
勤務当時は「検品」と言っていました。
その後ブックカート(本を乗せて運ぶためのカート。主に左右に3段ずつ、計6段で構成されている)に乗せて、各ジャンルの担当者によって陳列されます。
特に、入荷の多い日は開店時間までに検品や陳列が終わらないこともままあるため、すぐには店頭に陳列できない場合もあります。
なお、週刊誌や人気の雑誌・コミックの新刊は優先的に陳列されるため、これらはたいてい開店直後でもすぐに店頭で見つけられるはずです。
私が勤めていた書店でも、毎週開店直後に週刊誌を買いにくる常連さんがいたため、雑誌の中でも最優先で並べていました。
その一方で、まれに発売日が延期されたり、天候などの理由で入荷が遅れていたりする本もあるので、どうしても見当たらない場合は店員さんに聞くのが確実です。
これもまた新刊についての疑問になりますが、発売日に書店に行ったのに、新刊が入っていなくてがっかりした、という経験をしたことのある方もいるのではないでしょうか。
天候や運送状況、出版社や取次での手違いや、書店の発注漏れなどいくつかの原因が考えられますが、最も当てはまるのは「そもそもその書店に入荷予定のない本だった」という理由です。
都心の大手書店では多くの新刊が入荷しますが、地方の書店や小規模の書店では、新刊でも入荷しない本があります。
これは書店に対する「配本数」という数字が関係しています。
配本数の前に、まずは本の入荷の流れをざっくり説明します。
そもそも本は出版社から書店に直接送られるわけではなく、多くの場合は「取次(出版取次)」と呼ばれる、本の流通を扱う業者から送られてきます。
なお、書店(小売店)や出版社によっては、取次を介せず出版社と直接取引を行っている会社もあります。
取次は、書店の規模や立地、売上実績などに応じて、どの本を何冊書店に配るかを決めます。
書店に本を配ることを「配本」、その数を「配本数」と言います。
※取次ではなく、出版社側で配本数を決める場合や、書店側で配本数の希望を出せる場合もあります。
書店によって配本数は異なり、場合によっては、新刊でも全くその書店に入荷しないケースもあります。
そのため、新刊が入らないのは書店のミスとは限らないと、いうことを知ってもらえると嬉しいです……。
実際、入荷していない新刊に限って問い合わせを複数受けることもあり、売上の機会損失だと嘆いたこともありました。
なお、配本数は先に書いた通り、売上実績によっても変わります。
いつも通っている書店の新刊の入荷数を増やしたい、と思ったら、その書店で本を買いましょう!
売上が多ければ実績が増え、翌年の配本数が増える可能性が高くなります。
「推しにもっと人気になってほしいからグッズを買って貢献する」のと同じ感覚かもしれません。
また、その書店では本来配本される予定がされない本でも、事前に予約しておけば発売日に入荷されます。
ただし、受注生産だったり、予約の締切日が決まっていたりするものもあるので、早めの予約をおすすめします。
特にアイドルが表紙を飾る雑誌などは、入荷が予約分でほぼ埋まってしまう場合もあるので、「絶対欲しい!」と思ったら予約が確実です。
雑誌、特に女性向けファッション誌では、バッグやポーチなどの付録が毎月付いてきます。
雑誌の内容よりも付録が目当てで買う、という方も少なくはないと思われます。
元書店員としてはやや複雑ですが、これも今の雑誌の魅力の1つになっている、とも言えるでしょう。
付録の中身も年々豪華になっており、初めて1000円を超える付録付き月刊誌を見た時は、値段を二度見しました。
実はこの付録、書店に入荷した時から雑誌に挟み込まれているわけではなく、店員さんによって手作業で入れられています。
雑誌と付録は、同じ箱の中にばらばらの状態で入っているか、別々の箱に入った状態で入荷します。
付録がある場合は、検品(Q1参照)時に付録の数も数え、雑誌にはさんでいきます。
付録付きの雑誌は、当然付録がある状態でないと陳列できないため、人気女性誌の入荷日はスタッフ総出で対応します。
数や種類が多く、どうしてもさばききれない場合は、まず2、3冊は売り場に出すようにして、開店直後に来店したお客さんが購入できるようにしていました。
付録の厚さや大きさによって、付録を挟んだ状態の雑誌を固定する手段は異なりますが、多くの書店では輪ゴムや特殊なゴム(穴が開いており、付録を簡単に固定できる分厚いゴム)を使っています。
後者のゴムは輪ゴムと比べると単価が高いため、私が働いていた書店では、レジで外して雑誌だけを袋に入れてお客さんに渡していました。
輪ゴム以外では、荷造り紐(PP紐)で縛ったり、シュリンク(フィルム包装)をかけたりして陳列されていることが多いです。
私の勤めていた書店ではシュリンクする機械がなかったため、雑誌は上記のゴムか荷造り紐で対応していました。
本が表紙を見せた状態で陳列されている状態を「平積み」、棚の中で表紙を見せた状態で陳列されている状態を「面陳列」と言います。
私の勤めていた書店では、面陳列のことを略して「面陳」と読んでいました。
このポジションで並べられている本は、その店舗で売れている本や全国的に売れている本であるケースがほとんどです。
特に平積みは、同じシリーズや著者で固めて置かれていることも多く、合わせて買いたいときでも探しやすいというメリットがあります。
まれに、平積みしていた本が売り切れたため臨時で置いているときや、たくさん入荷したため平積みとして置かざるを得ない、というときもあります。
そのような場合でも、ジャンルの担当者が売れる(売りたい)と判断した本や、出版社が力を入れて販売したいと考えている本が置かれるので、全くの検討違いというわけではありません。
ちなみに、本の背表紙を見せて陳列することを「背差し」または「棚差し」と言います。
個人的には前者の呼び方が馴染みがありますが、書店によって呼び方は異なるようです。
【上記写真で並べている本】
左:C&R研究所『そろそろ常識?マンガでわかる「Python機械学習』
右:C&R研究所『そろそろ常識?マンガでわかる「HTML&CSS」』
【上記写真で並べている本】
左:KADOKAWA『マンガでわかるExcel』
中央:MdN『デザインのネタ帳 コピペで使える動く Webデザインパーツ』
右:日経BP『Python×Excelで作るかんたん自動化ツール』
昔は学校や地域の行事で、よく図書券が配られたものでした。
私が使ったことのある図書券は、ピンク色の紙に紫式部が描かれていたものでしたが、実はこれだけでも2種類あるのですね……。
使っていた当時は意識しておらず、途中でデザインが変わっていたということに今更ながら驚きました。
現在、図書券は発行が終了していますが、今でも店頭で額面通り使えるので安心してください。
図書券のデザインや金額などについては、図書カードNEXTのWebサイトで確認できます。
図書券の歴史も垣間見ることができて、なかなか面白いです。
ちなみに、私が書店に勤めていた時に見た最も古い図書券は、昭和51年12月から昭和61年11月に発行されていた、薄ピンク色のデザインのものでした。
▼図書カードNEXT 過去に発行した図書券
https://www.toshocard.com/corporate/ticket_publish.html
なお、図書券はおつりが出るので、額面よりも購入金額が少ない場合でも気兼ねなく使えます。
ただし、図書カードの場合はおつりは出ません。
カードの額面よりも購入金額が少なかった場合は、カードに残高が記録され、次回の購入時に使用できます。
残高は図書カードNEXTのWebサイトで確認できるので、レシートを捨ててしまったときでも安心です。
今回は、書店に関する素朴な疑問と回答をピックアップしましたが、いかがでしたでしょうか?
少しでも書店への疑問が解消されたり、より書店に興味を持っていただけたら嬉しいです。