そろそろ昔話をしてもいい年齢だなということで、シャショクの話を書いてみようかと思います。
リブロワークスは2年前(2024年)に別業界の企業と合併しまして、定期的にシナジーを高めるための懇親会があるのですが、そこで「シャショク」の話が出ました。てっきり写植のことだと思って話に入ったら、「社員食堂」の略だったんですね。そんな具合にちょっぴり?場を冷やしてしまったわけですが(そもそも社員食堂がある規模の会社に勤めたことがない)、今回は改めて写植と、それにまつわるショックを受けた話について書いてみます。
写植は「写真植字」の略で、レンズの力で文字を拡大縮小して印画紙に焼き付けるという組版技術です。それ以前の「活版」では、文字の大きさが数種類に限定されていたのに対し、自由な文字サイズで組版ができる画期的なものでした。
といっても私自身は写植で仕事したことはほとんどありません。最初に就職した都内の小さな印刷会社では、大部屋の写植の部署が主力でしたが、私はその隣にある小部屋のDTP(Desktop Publishing)部署に勤めていました。確かバブル崩壊(当時は理解してなかった)直後の92年頃だったと思います。ジャストシステムの「スーパーDTP大地」という、今は知る人も少ないMS-DOSの組版ソフトのオペレーターでした。その頃はMacDTPが本格的に日本上陸する直前で、MS-DOSやWindowsベースの国産DTPソフトが結構あったのです。
ちょっと脱線しますが、そのDTP部署を立ち上げた上司は学者肌の方で、私が就職した1か月後に「ロシア語を学びに留学するんだ。その代わりに君らを雇ったんだよね」といって去っていきました。20代のオペレーターが2、3人取り残されてポカーンとしながら、仕事をしていました。
写植の話に戻ると、写植の方式には手動写植と電算写植があり、手動写植機には1、2回触らせてもらったことがあります。でかいミシンのような機械で、ガラスの文字盤を手で動かしてペダルで固定し、レバーを引くとシャッターが下りて、印画紙に1文字焼き込まれるという仕組みでした。不器用な私は文字盤を固定するコツがどうにもつかめず、パソコンのほうがよっぽど簡単だと思ったものです。
電算写植機のほうはもっと進化していて、コンピュータに指示を送ると自動的に文字を拾って、数段落分の文字を一気に出力してくれます。オフィステーブル1つ分ぐらいのサイズがある、数千万もする機械で、形は昔の「みどりの窓口」にあった「切符を発行する機械」に似ていました(それもかなり昔の話なのでたとえにもなりませんが)。
追記:当時は知らなかったのですが、サザンナという機種だったようです。「サザンナ 写研」で検索してみてください。
とにかく主力はその巨大な電算写植機で、書店に並ぶ立派な本はそちらで作り、私がいたDTP部署では社内報とか大学の論文集などのマイナーな印刷物を作っていました。DTPソフト自体の性能は今考えると悪くなかった(文字組み設定だけは今のInDesignに近いものがあった)のですが、写植よりも解像度が低い上に、出力の専用レーザープリンターのトナーが散らばりやすく、紙版の質がちょっぴり低かったのです。出力紙にぽつぽつと散らばったトナー染みを、入稿直前にホワイトで消していたのを思い出します。
とはいえ私はパソコンと本が好きで入社したので、MS-DOSベースのDTPソフトのほうが好みにあい、罫線表で図を描くワザ(専用の「花子」という作図ツールがメチャ遅かった)とかレイヤーで2色版を作るワザを編み出したり、その後「Windows 95」と「大地2 for Windows」にアップデートしたりして、それなりに楽しんでいました。写植が花形だとは知りつつも、乗り換えたいと思った記憶はないです。
3年ちょっとしてから印刷会社を退職し、IT系出版社のサラリーマンライターに転身したのですが、その後、印刷会社の先輩が独立したと聞いて事務所に遊びに行きました。事務所のマンションに入って部屋の奥を見ると、使われていない電算写植機が置いてあります。どうしたのかと聞くと、その写植機は一緒に事務所を借りていた人の物だけど、その人が組版オペレーターを辞めて実家を継ぐことになったので置いてあるとのことです。
これは結構ショックでした。ほんの2、3年前まで花形だった技術で食えなくなることがあるのかと。あとで考えると、「写植で食えないから廃業した」とはいってなかった気もしますが、2000年頃から業界全体でMacDTPへの乗り換えが急速に進んだので、大まかな時代の流れとしてはそうだったのでしょう。
それ以来、技術は覚えてもいつか消えると心のどこかで考えるようになった気がします。
30年ほど働いていて、個人的に長く使えてるなと思った技術は
の3つでしょうか。
やはりベンダー依存してないものが強いのかな?と個人的な経験からは思わなくもないですが、ExcelやAdobe製品のように30年近く続いているものもありますよね。また、仕事に使う人生が30~40年なので、10年食える技術でもそこそこ寿命が長いともいえます。
まぁあまり大した教訓もないですが、永遠に続く技術はないので、今の技術で食いながら、新しい技術の動向をキャッチアップし続けていくしかないのかな、と思います。