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    時間。
    それは、悠久の流れ。
    その流れをさかのぼり、この青い惑星が時を刻み始めて間もない頃、人類がまだ誕生していない時代へお連れしましょう。
    巨大な生物が地上をのし歩いていた世界。
    ようこそ、ジュラシック・パークへ!

    ジュラシック・パーク・ザ・ライド 入場時のナレーション

    粗製ブログの定番フレーズ「いかがでしたか?」

    ネット上に氾濫する、異様に長く中身のない前置きと、大量の無料素材に飾られた信憑性の低いブログ記事に辟易としている人は少なくないだろう。

    そうしたブログ記事に特徴的に見られるテクニックとしてよく挙げられるのが、
    「最後を『いかがでしたか?』で締めることによって、感想を読者に投げっぱなしにする」
    というものだ。

    広げた話題を無理やりにでも締めくくるには確かに便利な「いかがでしたか?」という言葉だが、内容の薄いブログ記事の最後に使われる定番のフレーズというイメージが定着してしまった。
    そのため記事を「いかがでしたか?」で締めることは、それだけでその記事の信憑性を下げかねない行為だといえる。

    しかし、このリスキーなフレーズを結末に用いながらも、20年ものあいだ人々に愛され続けているコンテンツが日本にはある。
    大阪にあるテーマパーク、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下USJ)の看板アトラクションのひとつ、ジュラシック・パーク・ザ・ライドだ。
    USJは2019年まで「世界最高を、お届けしたい。」というキャッチコピーを掲げていたが、世界最高の「いかがでしたか?」は、まさにUSJでお届けされている。

    人類史における「ベスト『いかがでしたか?』」

    オープン当初のUSJを知る者にとって、久しぶりに行ったUSJで2001年の開園当初にあったアトラクションがほとんどなくなっているのに気付くのはかなり切ない。久しぶりにAKB48が音楽番組に登場しているのを見かけて、顔がわかるメンバーが柏木ゆきりん(背が高いので目立つ)しかいなくなっているのに気付くような切なさだ。


    そんな中でもジュラシック・パーク・ザ・ライドは2001年のオープンから存続している数少ないアトラクションのひとつで、アトラクションの外観も行列に並んでいる時に流れる映像も当時のままほとんど変わっておらず、立ち寄るたびに太古(2001年)の息吹を感じることができる。

    そんなジュラシック・パーク・ザ・ライドのあらすじはだいたい以下のとおりだ。
    われわれ乗客は、遺伝子操作により現代に蘇った恐竜を飼育する遊園地、ジュラシック・パークをボートで周遊するリバーツアーに参加することになる。
    ツアーはステゴサウルスやブラキオサウルス(背が高いので目立つ)など草食恐竜を観察する安全なものであるはずだったが、機器の故障によりボートが獰猛な肉食恐竜の生息するエリアに迷い込んでしまい、危険な恐竜がウヨウヨしている倉庫から脱出できなくなってしまう。
    果たしてわれわれは、ティラノサウルスなどの肉食恐竜の襲撃から生還することができるのか?

    前述のように、ジュラシック・パーク・ザ・ライドはオープン当初から外観も内容もほとんど変わった点がなく、そこがわれわれ当時を知るファンから愛されている由縁だ。
    初めて乗った時もボートは草食恐竜エリアを逸れてしまうし、何度乗っても係員の奮闘虚しく倉庫に迷い込んでしまう。十数年ぶりに乗っても予測したとおり不測の事態が発生し、1日に2回乗っても型通りに型破りな展開を見せる。
    慣れ親しんだ落語のネタを聴くようなものだ。

    ボートが誤った進路を取りはじめた頃、パークの係員はパニックに陥っている。
    「ステーション1。ツアーボートがまだコースを外れている。トランスポートステーションでボートを止めるんだ」
    叫ぶ声がボートの無線から流れ、乗客の不安を煽る。
    「緊急事態発生!」
    「乗客を救助しろ!」
    しかしボートは吸い込まれるように肉食恐竜エリアに迷い込み、獰猛な恐竜が放たれた倉庫へと進入してしまう。
    そうして徐々に最後の落下ポイントへと近づいていく。

    薄暗い倉庫の中で金属の軋む音をあげながら、ボートは急激な傾斜をゆっくりと上昇していく。
    そして勾配の頂点に差しかかってボートが動きを止めた刹那、目の前に閃光に照らされたティラノサウルスの姿が現れる。
    そして急降下。
    内臓が体から遊離していくような一瞬の浮揚感のあと、ボートは滑降をはじめ、徐々に大きくなる強烈な加速度によって今度は体を船体に押しつけられる(途中で写真を撮影されているので余裕がある人はポーズをとると良い)。
    悲鳴をあげる間もなくボートは水面に達し、計算され尽くした入射角で水上をかすめ、巨大な水しぶきを上げる。
    船体が水面を叩く轟音、降りかかる水滴、倉庫を脱出して突然開けた外界の眩しさに圧倒されていると、ジョン・ウィリアムズ作曲の雄大な「ジュラシック・パークのテーマ」とともに晴れやかなナレーションが流れはじめる。

    古代への冒険の旅、いかがでしたか?
    6500万年の時を越えて完成した、驚異の世界。
    それが、ジュラシック・パークです!

    ナレーションが終わるとテーマ曲はクライマックスに差しかかり、乗客も急降下時に放出されたアドレナリンの余韻で饒舌に感想を語り合う。
    中学生男子グループはどれくらい自分が動じなかったかを競い合い、大学生グループはこの後バックドラフト(同名の映画をもとにした、火災現場が再現されているアトラクション)に行って炎の熱で服を乾燥させる算段を話し合う。
    そうして無事に乗降エリアに到着し、ボートを降りたところでアトラクションは終了する。

    これが、USJがオープン当初から90秒おきくらいに抜き続けている伝家の宝刀、「ジュラシック・パークの『いかがでしたか?』」である。
    真っ赤なランプに照らされた倉庫のなかで肉食恐竜の咆哮と警告を示すビープ音を嫌というほど聞かされたあと、急降下を経て屋外に放り出された途端、明るい空が見え、雄大なテーマ曲が流れる。
    そんなタイミングで「いかがでしたか?」と問われると、思わず「いやぁよかったなぁ!」と答えてしまう。
    これぞ「世界最高」。


    人類史における「ベスト『いかがでしたか?』」は、2001年以来更新されていない。

    ジュラシック・パークへの疑問

    ただ、よくよく考えてみればこのタイミングでの「いかがでしたか?」には疑問を覚えなくもない。


    われわれ乗客は、故意ではないにせよパーク側の過失によって肉食恐竜のエリアに迷い込んでしまい、危険な目にあった(という筋書きになっている)のだから、どこかしらでアフターフォローが欲しい。
    しかし、倉庫を脱出してからアトラクションが終わるまで、パーク側は猛スピードでハッピーエンドを演出してくる。
    ボートが規定のルートを外れて肉食恐竜のエリアに入ってしまった時のあの焦りは嘘だったかのようだ。
    事態が解決した途端、大音量で「ジュラシック・パークのテーマ」の一番いいところを流し、あっという間にボートから客を降ろし、あまつさえ「いかがでしたか?」である。
    もちろん「いかがでしたか?」から始まるナレーションはボートが終着点に近づくと流れる自動音声で、途中でトラブルはあったがボートが無事に元のルートに戻れたから流れた(という筋書きになっている)のだろうが、パークの係員がパニックになるほどの悲劇の直後に、ハッピーエンドしか想定していない音声が流れ出すのだからいささかタイミングが悪い。


    結婚式の誓いのキスの直前に花嫁のかつての恋人が「ちょっと待った!」と式場に乱入し、ウェディングドレスを脱ぎ捨てた花嫁とともに走り去っていったあと、気まずい沈黙が立ち込める式場で木村カエラの「Butterfly」が流れ出してしまうようなタイミングの悪さだ。

    「いかがでしたか?」の適切な使い方

    それでもジュラシック・パークの「いかがでしたか?」には、内容の薄いブログ記事のような神経を逆撫でする響きはない。
    そう尋ねられても不快に感じないくらい、アトラクションそれ自体が面白いからだ。


    いまや「いかがでしたか?」はアフィリエイトブログのテンプレートのようになってしまったが、この言葉は本来、自分の上げた成果に誇りを持つプロフェッショナルが顧客に感想を求めるような場面に最もふさわしいのではないだろうか。
    レストランで見事なコース料理を提供したあと、シェフがゲストに「いかがでしたか?」と尋ねても不快感はない。
    ライブで感動的な「Butterfly」を披露したあと、木村カエラが観客に「いかがでしたか?」と尋ねても不快感はない。

    このように、「いかがでしたか?」を使うのは、自ら提供したものに対して相当の自負を持っている場合、それこそ「世界最高を、お届け」できたと思える場合に限ったほうが良い。
    もしブログ記事の結末に「いかがでしたか?」を使いたいのであれば、
    ・導入部分で読者に適切な期待を持たせられているか?
    ・途中に意外な展開を作れているか?
    ・結論部分を華やかに演出できているか?
    ・製作総指揮にスティーブン・スピルバーグが関わっているか?
    以上のリストをクリアしていることを確認してからにしたほうが良いだろう。

    アフィリエイトブロガー各位におかれても、「いかがでしたか?」を安易に使うことなく、本当に自信の持てるパフォーマンスを発揮できた場合にのみ使うよう注意していただきたい。
    それが、この青い惑星が時を刻みはじめて間もない頃から伝えられる、人類への教訓だ。






    …………さて、今回の社員ブログ、いかがでしたか?




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    それが、リブロワークスです!




    リブロワークスの今後から目が離せませんね!

    文責 平山 貴之