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    自分なりのストレス対処法をまとめる、コーピングリスト

    「コーピング 」あるいは「コーピングリスト」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

    コーピングとはストレスを感じたときに行う意図的な行動のことだ。そして、コーピングリストとは読んで字の如く自分にとって効果のあるコーピングをまとめたリストのことをいう。

    わかりやすい例を挙げると「イライラしたときはバッティングセンターに行く」「飲み会で愚痴をこぼす」などがコーピングにあたる。そのような、ストレスを感じたときに行う「ストレス解消法」だけではなく、ほとんどの人にとっては「趣味」として行っている活動もそのままコーピングの手段になるだろう。

    そんな「ストレス解消法」や「趣味」といったコーピングの手段をあらかじめリストにしておくことで、ストレスを感じたときに状況にあったコーピングを手早く選んですぐに実行できるのが、コーピングリストを作るメリットだ。

    ストレスを感じているときはコーピングの手段を考える余裕もなくなってしまうかもしれないので、それを元気なときに考えてリストにしておくことは精神的な余裕にもつながる。

    コーピングの選択肢は多いほどよい。「これ1つさえやればどんなストレスにも効く」というものをいくつか持っておくより、「これだけの数があればどれかは効くだろう」と思えるよう、質より量の考え方で自分に効果のあるコーピングをできるだけたくさん挙げていくのがコーピングリストを作るときのコツだ。

    ではいくつくらいのコーピングを持っていればよいのか。

     『コーピングのやさしい教科書』(宝島社)などの著書がある臨床心理士の伊藤恵美さんは、コーピングについてのワークショップでとりあえず100項目のコーピングを書き出すことを勧めているそうだ。

    100項目となるとかなり多く聞こえるかもしれないが、何も所ジョージや片岡鶴太郎レベルの多趣味を目指す必要はない。
    自分にとって楽しいことや普段何気なく行っていることを細かく分解して、1つ1つに名前を付けていくと、案外すぐに100という数字に届いてしまう。

    以下は、私が作ってみたコーピングリストだ。
    ちなみに私は特別に多趣味というわけではなく、趣味を聞かれると「映画鑑賞」と「読書」という、人話すと無趣味扱いされがちな回答を2つ並べるしかない。
    参考として貼り付けるだけなので(あと恥ずかしいので)熟読してもらう必要はないが、どうやって数少ない趣味を水増しして100のレパートリーを挙げるかを実例で示したい。

    100項目を一気に読ませておいてこんなことを言うのもなんだが、世界に存在するストレスのほとんどはこのリストの1、2でカタがついてしまう(犬を飼った経験のある方には共感してもらえると思う)。
    残りの98項目はおまけみたいなものではあるが、少し細かく見ていこう。

    映画鑑賞は私の数少ない趣味の1つなので、これを「映画を見る」という1項目として済ましてしまうのはもったいなさすぎる。
    そこで、24〜27にあるように自分が映画を楽しむ過程を分解してみる。これだけで4項目になる。
    次に、28〜35では『ロッキー』シリーズをはじめとして好きな映画を挙げているが、どの作品のどのシーンが好きかまで落とし込んでみた。元気なときにここまで考えておくと、ストレスを感じたときに見る映画やシーンに迷わなくて済む。

    他にも、「音楽を聞く」なら誰のどの曲か、「漫画を読む」ならどの漫画のどのあたりか、までを考えて細かく分解すると、100項目のコーピングリストを作るのはそう難しいことではない。

    私たちの行動は無数の無名関数から成り立っている

    コーピングリストを作るコツは「自分にとって楽しいことや普段何気なく行っていることを細かく分解して、1つ1つに名前を付けていく」ことだと書いた。

    これは、私が普段編集したり執筆しているプログラミングの教本で教えている内容とはまったく逆のことかもしれない(申し遅れましたが、弊社、リブロワークスはIT関連の書籍を専門に扱う編集プロダクションです)。

    効率的なプログラムを書くためには、1つ1つの細かい処理に名前を付けないほうがよい場面が多いからだ。

    プログラミングの世界では通常、コンピュータに実行させたい処理を「関数」という単位にまとめて、名前を付ける。そして、コンピュータに命令を出すときは「関数の名前」を指定する。

    プリンタから文書をプリントしたいなら「印刷」という名前の関数を実行し、プリンタに文書を読み取らせたいなら「スキャン」という名前の関数を実行する、といった具合だ。

    しかし、関数にあえて名前を付けない「無名関数」という仕組みもある。

    「無名関数」のメリットは、プログラムにおいて頻繁に実行する処理を「例のあの処理」「例のあの行動」のように、具体的な名前を指定することなく実行できるようになることだ。

    人間が歩くときのことを考えてほしい。

    歩くために体を動かすとき、「右足を前に出す(このとき、左手が前に出ている)」「左足を前に出す(このとき、右手が手が前に出ている)」「右足を前に出す(このとき、左手が……)」……というように自分が今している行動を1つずつ細かく意識して実行していたら、脳の空き容量が足りなくなり、考えごとをしながら歩くなどということはできなくなってしまうだろう。

    このとき、「右足を前に出す」「左足を前に出す」という動きを無名関数にしておくと、この動きの名前を意識せずに行えるようになり、何も考えなくても2つの無名関数を交互に繰り返せるようになる。

    関数「歩く」の中に、名前を意識せずに実行できるよう無名関数化された「右足を前に出す」と「左足を前に出す」が含まれているようなイメージだ。

    人間の行動はこのように、意識せずに行われる無数の無名関数から成り立っており、私たちが普段意識するのは関数として名前が付けられた部分だけだ。

    日常の無名関数に名前を付けてみる

    しかし、コーピングリストを作るときは、それまで意識していなかった無名関数のような行動にあらためて名前を付けるのが有効だ。

    つまり、プログラミングにおいて定石とされる、「頻繁に行う処理は無名関数にする」というやり方とは逆のことを行うのだ。

    私が趣味として行っていた関数「映画を見る」がどこから始まっているのかを考えると、無名関数として意識せずに行っていた「映画館に置いてある新作のフライヤーを持ち帰る」に思い当たる。

    そのようにして、自分のストレス解消法や趣味がどんな無名関数から成り立っているかを考えて、あらためて名前を付けることでコーピングのレパートリーがどんどん思い当たる。

    プログラミングにおいて無名関数を作るのは、1つ1つの細かい処理にいちいち名前を付けていたらプログラムが煩雑になってしまうからだが、コーピングリストを作るときには「いちいち名前を付ける」ことで行動の細部を意識できるようになる。

    このように普段は意識していない細部にあらためて名前を付けていくことで、コーピングリストは簡単に作成できる。

    「ストレスを感じたときに繰り出せる技が100個ある」という事実は精神的な余裕にもつながるので、あなたも自分の趣味を分解してリストを作ってみてはいかがだろうか。

    ちなみに、『ロッキー』シリーズを見たことがない方は2015年公開の続編『クリード』から見はじめるのもおすすめです。