今、長期休暇にやりたいことのリストを作るとすれば、あなたは何を挙げるだろうか?
部屋の掃除か、気になっていた飲食店に行くか、はたまたキャンプに出かけるか、テレビの録画ハードディスクを整理するか。
どれも意義ある活動だが、今回はそのリストに1つ付け加えることを提案したい。
今からゴールデンウィークまでに、知識ゼロの状態から『アベンジャーズ』シリーズに追いついてみませんか?
ここでいう『アベンジャーズ』シリーズとは、マーベル・スタジオズ製作の一連の映画作品(2008年『アイアンマン』から現時点の最新作『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』までの27作品)、いわゆるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を指すものとする。
MCUという名前に親しみがない方も、なんとなくアイアンマンとかキャプテン・アメリカって人たちが『アベンジャーズ』って作品で定期的に集まるらしい、くらいのざっくりしたイメージは持たれているかもしれない。
この27本の映画は作品を超えて世界観を共有しており、すべての作品で起きていることは同じ世界での出来事とされる。つまり、見たい作品だけを見ようと思っても、その予備知識としてその前に公開された映画を見ていないとダメなのでは……という心理が働きやすい(実際には、それぞれの作品単体でも楽しめる配慮がされている場合が多い)。
しかも、作品内での時系列は映画の公開順とは必ずしも一致していないので、単に公開順に見ていくだけでは何か重要なことを見逃すのでは……という不安も生まれる(実際には、単純に公開順に見ればよい)。
加えて、映画だけでなくTVドラマや配信ドラマ、関連コミックでも世界観が共有されているので、そのすべてを網羅するための膨大な時間と脳の空き容量がないと、自分は一生『アベンジャーズ』に追いつけないのでは……と萎縮してしまう(実際には、TVドラマと映画の連携がうまくいっておらず辻褄があっていない部分も多い)。
結果として、ただでさえ27本もあるのに、どの作品が特に重要で、どこから見はじめればよいのかという見解が識者のあいだでも分かれ、ビギナーが入門するハードルは年々高くなりつづけている。
今回は、『アベンジャーズ』シリーズに追いつくための手段として、建設やソフトウェア開発の現場で進捗管理に用いられる、ガントチャートという手法を紹介しよう。
ガントチャートは、何らかのプロジェクトの工程を明らかにし、進捗を管理するために作られる表のことだ。
ここでいうプロジェクトとは、「行われるのが1回きりで、何らかの成果を達成するための活動」のことを指す。
このように捉えれば、「ダムを建設する」もプロジェクトだし、「社内で使う小規模なソフトウェアを作る」もプロジェクト、そして「『アベンジャーズ』に追いつく」も立派なプロジェクトだ。
この表は、プロジェクトの開始前にスケジュールの計画を立てるためにも、実際にプロジェクトが始まったあとにその進捗を管理するためにも使える。
ガントチャートは、プロジェクトを始める前からプロジェクトが終わるまで、進捗管理に役立ってくれる頼れる相棒だ。
そんな頼れるガントチャートを作成する方法は、大まかにいえば以下の3ステップだ。
一番最初に、プロジェクトを達成するために行う作業を洗い出し、その前後関係を明らかにする。
小規模なシステムを作るプロジェクトの例でいえば、最初に関係者で「ミーティング」を行ってシステムの方針を決める、次に「設計」をして、その次は「開発」をして……といった具合だ。
その後、それぞれの作業にかかる期間を見積もって、開始日と終了日を決める。
「ミーティング」には2日、「開発」には2週間弱かかるとすると、それに従って「ミーティング」は4/1〜4/2の2日間、「開発」は4/3〜4/15の13日間……と作業の順番に従ってそれぞれの開始日と終了日を決めていく。
最後に、作業にかかる期間をスケジュールの部分に横棒として書き込めばガントチャートは完成だ。
ガントチャートを作ることによって、作業ごとにどれくらいの期間がかかるか、どの日にどこまで進んでいなければいけないかが視覚的に表現される。
そして、プロジェクト開始後はこのガントチャートが進捗管理にも使える。
上の表では「今日」という赤い縦棒を引いているが、ガントチャートを見ると、「この日までにこの作業まで終わっていないといけない」という情報がすぐにわかる。
これによって、「今日までの実際の進捗」と「予定ではどこまで進んでいるべきか」の比較を簡単に行えるのだ。
表では、完了した作業の横棒は灰色で、未完了の作業は青色で表現している。今日までに完了した作業がスケジュールと一致しているので、プロジェクトは予定通り進捗していることがわかる。
この記事の趣旨は、先ほど紹介したガントチャートを使って、ゴールデンウィークまでに『アベンジャーズ』に追いつくための進捗管理を行おうというものだ。
『アベンジャーズ』に追いつくプロジェクトの進捗管理にガントチャートが適している理由は2つある。
1つ目は、このプロジェクトは行うべき作業が明確で、しかも作業を実行するべき順番もあらかじめわかっていることだ。
つまり、作業としては映画を27本見ればよいし、順番は映画が劇場公開された順番に見ればよい。
そして2つ目は、作業を「フェイズ」という単位に分けられることだ。
建設プロジェクトやソフトウェア開発プロジェクトの作業が「設計」、「開発」などの単位で分けられるのと同じように、『アベンジャーズ』を含むMCU作品27本は、マーベル・スタジオズが公表している「フェイズ」という単位で分けられる。
具体的には、『アイアンマン』から『アベンジャーズ』までの6作品は、それぞれのヒーローの登場とチームの誕生を描くフェイズ1、『アイアンマン2』から『アントマン』までの6作品はチームが拡大していくフェイズ2……といった具合だ。
以上2つの理由から、『アベンジャーズ』に追いつくには、ガントチャートでスケジュールを立て、進捗を管理しながら映画を見るのが有効だ。
ここで、読者から当然予想される意見にあらかじめ答えておこう。
ガントチャートだかなんだか知らないが、プライベートの時間でやることにまでそんな管理手法を当てはめたくない、という意見だ。
この意見については、まったくもって同感である。ぐうの音も出ない。
私も、他人から「あなたの余暇の楽しみ方は非効率だから、もっと効果的な管理手法に基づいて計画を立てたら?」と言われたら、できるだけ効率的な手段(拳など)でその者を黙らせるに違いない。
なので、今回はこのガントチャートをあらかじめこちらで作っておいたし、作業の順番においても期間についても、なんなら実行する作業についても、かなりルーズなチャートにしておいた。
このチャートは個人的な意見によって作られた1つの参考に過ぎないし、「これが『アベンジャーズ』シリーズの唯一正しい鑑賞の仕方だ」と説くものでもない。
予防線を張るのはこれくらいにして、作成したチャートを見てみよう。このチャートは、Googleスプレッドシートに簡単な関数と入力規則を設定して作成している。
このチャートに従ってシリーズを見ていく方法について、すこし説明しよう。
まず何よりも、1ヶ月で27本も映画を見るのはしんどい。
あなたが映画関係の仕事に就いていたり、映像芸術を専攻する学生である場合は別だが、多くの人にとって1日1本のペースで映画を見る時間を確保するのは難しいだろう。
なので、見る作品は最も少なくて7本でよいことにしておいた。
もちろん、27本すべてを見たうえで、TV、配信ドラマシリーズと未邦訳コミックスまで網羅しておけと説くファンもいるだろう。そう感じる人はこれとは違うガントチャートを作ってくれればよい。
どの作品を優先して見ればよいかを示すために、ガントチャートの作品名の右側に、「バイブス優先度」という列を作っておいた。ここに書いてある値が1の作品はシリーズ全体の流れを押さえるために必須、2の作品はできれば見ておいたほうがよい、3の作品は余裕があれば見ておいたほうがよい、という基準で私が個人的に判定した優先度を記入してある。
ここで書いておきたいのは、これはあくまでシリーズに追いつくにあたっての優先度で、1の作品の完成度が3の作品より高い、あるいは3の作品は見なくていいと言っているわけではないことだ。
私自身がシリーズで最も好きな作品は何? と聞かれたらおそらく4時間ほど悩んでから『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』と答えるのだが(実際、この記事を書きながら4時間悩んだ)、日によっては『ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー』が一番だなぁと感じる日もあるし、やっぱり『アントマン』が一番かと思う日もある。明日は『シャン・チー』か『ブラックパンサー』が一番になっているかもしれない。
それほど好きな作品にも2や3の優先度を付けているので、この優先度は泣きながら判定していると思ってほしい。
というわけで、これからゴールデンウィークまでに『アベンジャーズ』シリーズに追いつきたい方は、タイトルに『キャプテン・アメリカ』と入っている3作と、『アベンジャーズ』と入っている4作を見るのがおすすめというのが私の意見だ。
これら7本の映画を見る順番やスケジュールについては、ガントチャートを参照してほしい。
ストーリーの観点からも、制作陣の観点からも、『キャプテン・アメリカ』3部作がシリーズ全体の背骨を成していることについては識者のあいだでも意見が一致するだろうし、それぞれの映画で登場したヒーローたちが『アベンジャーズ』で集合するのを見るのがこのシリーズの醍醐味の1つ、という意見にも多くの人が賛成してくれるだろう。
私自身にゴールデンウィークまでに何かしなければいけないことがあるかというと、とりあえず部屋の掃除をして、加湿器のフィルターを替え、冬に仕掛けたコンバット ブラックキャップを新しく仕掛けなおさなければならない。
皆さんと一緒に『アベンジャーズ』を見かえすとすればそのあとだ。