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    仕事柄、用語説明を書く機会がよくあるのですが、意外と困ってしまうのは「動画のファイル形式」のような、同ジャンル内の似た役割の用語です。特徴を抜き出して説明するとほとんど同じになってしまい、書き分けができません。書き分けができていないと、読者も困惑します。

    そんなときは、用語を時系列に並べた年表を作ります。AからBが生まれ、Bの影響下でCが生まれた……といった関係が見えてくると、各用語の位置づけが頭の中で整理され、説明しやすくなります。

    これは説明を受ける側にとっても同じはずです。単純に羅列された用語を暗記するよりは、歴史というストーリーで見せたほうが、頭に収まりやすくなるものです。

    ということで、過去に書いた原稿からいくつか例をお見せしましょう。

    マルチメディアフォーマットの年表

    まずはマルチメディアフォーマットの年表です。ファイルフォーマットを画像、音声、動画の3ジャンルに分け、1980年からの10年単位で出現順に並べています。

    マルチメディアフォーマットの年表

    MIDI、TIFF、GIFが古いですね。MIDIは電子楽器を制御する指示を書くためのフォーマットで、その後の録音タイプの音声フォーマットとは根本的に異なります。TIFFとGIFは可逆圧縮で、非可逆圧縮が発明される以前の画像フォーマットです(TIFFはその後のバージョンアップで非可逆圧縮もサポートします)。

    1990年代初期のBMP、WAV、AVIの3形式はWindows 3.0用です。すぐあとのMOVも含めて、OSに依存した形式です。パソコンの性能向上と共にGUI OSが主流となり、マルチメディアが実現可能になった時代の到来を表しています。

    1990年代半ばに入ると、JPEG、MP3(MPEG-1 Audio Layer-3)、MPEG-1といった非可逆圧縮系のフォーマットが登場します。これらに共通するのは、人間の心理・認識が捉えにくい情報をカットする点です。そのおかげで、可逆圧縮ではありえない高い圧縮率を実現しています。

    2000年代に入るとMPEG-4、H.264、H.265などの動画フォーマットが誕生します。これらのバックグラウンドにあるのはインターネット配信です。回線のブロードバンド化、プロセッサ性能のさらなる向上によって、重い動画データを小さく圧縮して配信します。それはやがてYouTubeなどの動画配信サービスの誕生へとつながっていきます。

    コンピュータとネットワークの年表

    さらに2つ例をお見せしましょう。1つ目はコンピュータの年表です。

    コンピュータの年表

    1940年代に真空管を使った電子計算機が誕生し、その後、トランジスタによって縮小(といってもかなり大きいですが)された汎用コンピュータ(メインフレーム、ホストコンピュータ)が登場します。当時のコンピュータはとても貴重なもので、1台の大きなコンピュータに端末(入出力装置のみの機械)をつないで使っていたそうです(YouTube動画、Teletype ASR 33 Part 10: ASR 33 demo.)。

    トランジスタは集積回路(IC)へと発展し、1970年代になって1チップCPUの登場がパソコンを産み出します。安価なパソコンの登場はコンピュータの台数を増やし、それがクライアントサーバモデルの普及につながります。その後2000年代に入ってスマートフォンが登場します。

    コンピュータの歴史には「小型化」という明らかな傾向が見え、そのたびにより多くのユーザーがコンピュータを使うように世界が変化しています。

    次はコンピュータネットワークの歴史です。汎用コンピュータが誕生した1950年代からスタートします。

    ネットワークの歴史

    初期のネットワークはコンピュータメーカーごとに仕様がバラバラで、汎用コンピュータと遠隔地の専用端末をつなぐWAN(当時はまだWANという言葉はありません)が中心だったようです。よく調べると例外はあるかもしれませんが、コンピュータ同士はまだつながっていなかったのです。パソコン登場以前のコンピュータはひと部屋を埋めるような大きなものですから、1組織が何台も所有するケースはほとんどなかったのでしょう。

    1960年代の後半に、複数の通信を同時に行うパケット通信の研究が進み、それを踏まえて1970年頃にARPANET(アーパネット)が誕生します。ARPANETはコンピュータ同士をつなげる目的で作られ、それがのちのインターネットに発展します。

    有線LANの規格であるイーサネットは、1970年代半ばから研究が進められ、1980年代頭に最初の仕様が公開されました。ネットワークの種類を説明するときは普通、LAN→WAN→インターネットの順で説明することが多いのですが、時系列ではWAN→インターネット→LANだったのですね。これは少し驚きがあります。また、当時はイーサネット以外の規格があり、プロトコルもさまざまなものが乱立した戦国時代で、現状のようにイーサネット+TCP/IPでまとまるのは1990年代後半になってからです。

    1980年代のLANはよく知りませんが(子供だったので)、1990年代後半に働き始めた頃、イーサネットケーブルでWinとMacをつないでもファイル共有ができない!となった記憶があります。当時はファイル共有のプロトコルが違ったのですね。

    1980年代に流行ったパソコン通信は、パソコン上で端末エミュレータを動かして遠隔地のホストコンピュータを操作するというもので、のちに普及するインターネット系サービスとは仕組みがだいぶ違います。クライアントサーバモデルではなく、集中型システムです。

    1990年代初頭にWWW(Web)が誕生し、それがインターネット普及の起爆剤となります。インターネットの原型が作られてから20年以上経っていますから、Webが一般ユーザーにとってどれだけ魅力的なサービスだったかがわかりますね。

    年表の作り方

    年表の作り方といっても大したテクニックはありません。PowerPoint、もしくは再編集しやすい何らかのグラフィックスソフトを使い、テキストを配置していくだけです。タイムラインは大まかに10年おきぐらいにすることをおすすめします。「1970年代半ばから開発が進められ、80年代に仕様が固まった」といったように年をまたぐものも多いからです。

    登場年代はコンピュータ関連だとWikipediaで調べるのが手早いでしょう。誤りが含まれている可能性もありますが、大まかなものは問題ないはずです。

    よく知っていると思っているジャンルでも、自分が体験し始める以前のことは意外と知らないことが多いものです。体験した時代でも、自分の立場からは見えなかったことがたくさんあります。年表作りはそれを明らかにする助けになるのです。